[湯船2] 清水谷竜華 : ウチは、綾の手を引っ張り、夜の温泉街へ出た。
[湯船2] 清水谷竜華 : 辺りはもう、完全に真っ暗になっていた。
[湯船2] 清水谷竜華 : カロン、カロン、という軽やかな下駄の音を鳴らしながら。
[湯船2] 小路綾 : 暗い夜道、ここに来た時のように、少し不安げになるような場所。
[湯船2]
小路綾 :
今は、と聞かれたら。
それは不安しかない。
[湯船2] 清水谷竜華 : 橙色にぼーっと灯される道の下を、肌を若干突き刺すような寒さの中、歩いていた。
[湯船2] 小路綾 : ……これから、どうなっていくんだという、幸せな不安。
[湯船2]
清水谷竜華 :
目的地は────────温泉。
旅館にあるものではない、外にあるもの。
[湯船2] 清水谷竜華 :
[湯船2] 清水谷竜華 : そうして到着した場所は────────。
[湯船2] 清水谷竜華 : ────────偶々然々にも、二人っきりの。
[湯船2] 清水谷竜華 : 夜の空に、もくもくと湯けむりが立ち昇っていく、岩に囲まれた露天風呂。
[湯船2] 清水谷竜華 : 「………今度は……ウチらだけの、貸し切り……みたい、やね」
[湯船2] 清水谷竜華 : 綾と手を握りながら。
[湯船2] 小路綾 : 「……ええ、二人っきり…みたいね」
[湯船2] 小路綾 : 手をぎゅうう、と握ったまま。
[湯船2] 小路綾 : 「……でも、その方がよかったわ……」
[湯船2] 清水谷竜華 : 「………ん」
[湯船2] 清水谷竜華 : 「……せやね」
[湯船2] 清水谷竜華 : ふふふ、と笑い。
[湯船2]
小路綾 :
そして、一歩、二歩。
竜華へとより、ぴとりと肌をくっつけて。
[湯船2] 清水谷竜華 : 「あ………」
[湯船2] 小路綾 : 「うん……」
[湯船2] 清水谷竜華 : 肌を露出した寒空の下で感じる、恋人の肌の温もり。
[湯船2] 清水谷竜華 : 「………ふふふ、ほなら、ウチも……」
[湯船2] 清水谷竜華 : 綾に、寄り添うように、ぴっとりと肌を合わせ。
[湯船2] 小路綾 : 「……あっ……ふふ、ふふ……!」
[湯船2] 小路綾 : …これが、竜華の、おはだ……
[湯船2] 小路綾 : …なんて、暖かいのかしら…
[湯船2] 清水谷竜華 : 「………綾の肌、綺麗で……もちもちで……もう、ほんま」
[湯船2] 清水谷竜華 : 「……食べてしまいたいくらい、やね」
[湯船2] 清水谷竜華 : 悪戯な笑みを見せる。
[湯船2]
小路綾 :
「たべ、て……ふぇえ……!?お、美味しくないわよ…!?」
もぐもぐ……!?
[湯船2] 小路綾 : ぶんぶん、手を振りながら。
[湯船2] 清水谷竜華 : 「そやろかぁ~?綾の肌、めっちゃ美味しいやろ~、んふふ~」
[湯船2] 清水谷竜華 : 綾の肩を、指先でツンツン、と突っつきながら。
[湯船2]
小路綾 :
「う、ぅうう……」
かぁぁ、と顔が赤くなり。
[湯船2] 小路綾 : 「でも……竜華だけなら、食べても……ひゃぁっ!?」
[湯船2] 清水谷竜華 : 「……………」
[湯船2]
小路綾 :
冷えた肩に、つん。
と感覚が走って。
[湯船2] 清水谷竜華 : 綾の、じっと見つめる。
[湯船2] 清水谷竜華 : 食べても………?
[湯船2] 小路綾 : ぴょいんと、跳ねる。
[湯船2] 清水谷竜華 : トクン。
[湯船2] 清水谷竜華 : ウチの、理性が、削れていく感覚。
[湯船2] 清水谷竜華 : あぁぁ……もう、ほんまに、この子は……。
[湯船2]
小路綾 :
「……あれ、りゅう、か……?」
[湯船2] 清水谷竜華 : 可愛くて、可愛くて可愛くて……!
[湯船2] 小路綾 : 向ける視線が、なんだか変
[湯船2] 小路綾 : というより…
[湯船2] 清水谷竜華 : 「………なぁ、綾」
[湯船2] 小路綾 : ……熱い、ような…
[湯船2] 小路綾 : 「……え、ええ…」
[湯船2] 清水谷竜華 : 「………もし、ウチが……」
[湯船2] 清水谷竜華 : 「ここで、本気で綾のこと、食べてしまいたいって言うたら……」
[湯船2] 清水谷竜華 : 「……どう、思う……?」
[湯船2] 清水谷竜華 : 「ウチのこと、嫌いになってまう……?」
[湯船2] 小路綾 : 「…………」
[湯船2] 小路綾 : じっと、竜華の方を見つめて。
[湯船2] 小路綾 : ぎゅっ。
[湯船2] 小路綾 : ぎゅうううううう。
[湯船2] 清水谷竜華 : 「あ」
[湯船2] 小路綾 : 「そんなの」
[湯船2] 清水谷竜華 : ちゃぱん、と湯船に波が立つ。
[湯船2] 小路綾 : 「……好きになるに、決まってるじゃないの…」
[湯船2] 小路綾 : ……あ…
[湯船2] 清水谷竜華 : 「………綾……」
[湯船2]
小路綾 :
伝わった、かな。
私の気持ち……
[湯船2] 清水谷竜華 : 「……それは、合意……と見なして……ええん、やな……?」
[湯船2] 清水谷竜華 : ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ、ドキ。
[湯船2] 小路綾 : じっと、竜華へと顔を向けて。
[湯船2] 清水谷竜華 : 綾の肩を、壊れてしまわないように、ぎゅっと掴み。
[湯船2] 小路綾 : 「………」
[湯船2] 小路綾 : 「私が、してほしい…の…」
[湯船2] 清水谷竜華 : 決して離さないように、瞳の奥を、見つめ。
[湯船2] 清水谷竜華 : 「………ほな、しちゃう」
[湯船2] 清水谷竜華 : 「ウチ、ぶつけてまう」
[湯船2] 清水谷竜華 : 「………綾、可愛いよ」
[湯船2]
小路綾 :
肩から伝わるその手が、暖かくて、ほんわりして。
気持ちよくて。
[湯船2] 清水谷竜華 : 「……好き」
[湯船2] 清水谷竜華 : ……そのまま、目を閉じ。
[湯船2] 小路綾 : 「……りゅう、か…」
[湯船2] 清水谷竜華 : ゆっくりと、綾の顔へ────────。
[湯船2] 小路綾 : 掠れる声が。
[湯船2] 小路綾 : 塞がれて、消える。
[湯船2] 小路綾 : 「ん、むっ」
[湯船2]
小路綾 :
…ぴとり、と。
柔らかな、感触が唇に。
[湯船2] 清水谷竜華 : 暗い空の下。湯けむりの中で。重なる2人の少女のシルエット。
[湯船2] 小路綾 : ……あ、あぁぁああぁ………
[湯船2] 清水谷竜華 : 愛情を失った代価で生まれた、この温泉の地で。
[湯船2] 小路綾 : きもちいい………
[湯船2] 清水谷竜華 : 今、確かに、"愛情"が、しっかりと、刻まれた、生まれた────────。
[湯船2] 小路綾 : あ、ぅ、ああ……。
[湯船2] 清水谷竜華 : 綾……綾、好き……愛してる……ウチだけのもん……。
[湯船2] 清水谷竜華 : もう、絶対に離さへん……。
[湯船2] 小路綾 : ……りゅうか、りゅうか……!
[湯船2] 清水谷竜華 : この、ちっちゃな舌も、肩も、体も、全部、全部。
[湯船2]
小路綾 :
迸る情熱が、唇へと伝わって。
重ね合わせる、熱が。
[湯船2] 清水谷竜華 : 綾の、可愛らしい純粋さも。誰よりも真っ直ぐで、誰よりもウチのことを見てくれた、優しさも。
[湯船2] 小路綾 : …なんで、こんなに……気持ちいいのって。
[湯船2] 小路綾 : 好きな、恋人の、竜華だから…
[湯船2] 清水谷竜華 : 全部、ウチだけのもの。
[湯船2] 清水谷竜華 : 「………ぷはあ」
[湯船2] 小路綾 : そして、なにより
[湯船2] 小路綾 : 「……ん、ぷっ」
[湯船2] 小路綾 : 「はぁ」
[湯船2]
清水谷竜華 :
切なくも、惜しむように、唇を離し
潤んだ瞳で、愛しく見つめる。
[湯船2] 小路綾 : 「竜華」
[湯船2] 小路綾 : 「可愛い、わ」
[湯船2] 清水谷竜華 : 「綾」
[湯船2] 清水谷竜華 : 「可愛いで」
[湯船2] 小路綾 : 「………っ」
[湯船2] 小路綾 : 「……う、ぅううう~~………」
[湯船2] 小路綾 : ぽろぽろと、涙がにじみ。
[湯船2] 小路綾 : 「好き、好き!!可愛くて、頼りになる、あなた、竜華に……恋してるの!!」
[湯船2]
清水谷竜華 :
永遠にこうしていたい。
塞がれた空間じゃあらへんけど、今ここだけは、二人だけの貸し切りや。
[湯船2]
小路綾 :
うれし泣き、なんて…したことなかった…。
でも、ずっと……心地いい…
[湯船2]
清水谷竜華 :
「うん……うん………うん……」
自然と、竜華も涙が零れ
綾の言葉を、胸に刻む。
[湯船2] 清水谷竜華 : 「ウチもや……綾の一生懸命なところ……優しいところ……嘘を吐かない真面目なところ……全部、ぜーんぶ好きや」
[湯船2] 小路綾 : 「ぅ、ああう………」
[湯船2]
小路綾 :
思いを、まっすぐ伝えられて。
それに耐えられるほど、今は固くもなかった。
[湯船2]
清水谷竜華 :
甘い感覚に、心の中が満たされていく。
これが、恋、ふふ、ふふふ、危険、やね。
こんなの……夢中になってまうやろ。
[湯船2] 小路綾 : 「りゅ゛うがぁああ~~………」
[湯船2] 小路綾 : 泣きつくように、抱き着いて。
[湯船2] 小路綾 : ぎゅうっと、抱き締める。
[湯船2] 清水谷竜華 : だから、ウチ、もう、とことん溺れさせてもらうで……。
[湯船2] 小路綾 : ……こんなに愛しい人を、離さない、離せない。
[湯船2]
清水谷竜華 :
「……綾……」
ぎゅ、と抱き締め返し────────。
[湯船2] 小路綾 : それが、私の…素直。
[湯船2] 清水谷竜華 : また、2人のシルエットが、ゆっくりと近づき────────。
[湯船2]
小路綾 :
「………あ」
零れた言葉は、それだけで。
[湯船2] 小路綾 : そのまま
[湯船2] 小路綾 : 続きは
[湯船2] 小路綾 : ────。
[湯船2] 小路綾 :
[湯船2] 小路綾 :
[湯船2] 小路綾 :